>Requiem

その2・・・・震災前夜・・・

1995年1月16日。
当時、4歳と2歳だった子供たちはすでに寝ていたか
まだ、ぐずぐずと起きていたのか、そんな時間だったと思う。
テレビに流れるテロップが、神戸震度1を知らせていた。
「神戸で地震なんて、珍しいな〜」と思った事を、はっきり覚えている。
前触れだとは、誰も思わない。

その頃住んでいたのは、西宮市、甲子園球場の南東数キロに位置する
昭和30年代に建てられた四角い団地だった。
5階建てで、一つの棟に30戸。真ん中の階段を上がって3階が我が家。
隣のおばちゃんは、丹精込めた花や野菜をお裾分けしてくれた。
下の家にはずいぶん迷惑をかけたのに、いつも親切にしてもらった。
上の家には白い犬のはなちゃん。1階のおばちゃんは話好きで
向こうの階段のおばあちゃんは、子供たちの事を「孫たち」と呼んでくれた。
自転車を点検しては知らないうちに整備してくれていた、おっちゃんや
太めで明るい笑顔のお母さん。
同じ棟に、4歳と2歳の兄弟が3件いて、それはそれは騒がしかったのに
苦情めいた事を言われた事がなかった。
今思えば、とても伸び伸びと幸せに暮らしていた。

例えば、誰もがその土地に、地域に、人に馴染んで暮らしていた。
あの角を曲がれば何があって、近道や眺めのいい場所や
安心して遊べる場所を知っている。そんな暮らしをしていた。
その日までは。

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